東山魁夷 心の旅路館について



画伯と山口村は70年の歳月の後、画伯の高い人間性により結ばれました。平成6年7月、画伯は「私の青春時代の地へ」と所蔵のリトグラフや木版画などを山口村に寄贈されました。村は画伯の青春時代所縁の地であるこの地に、「東山魁夷心の旅路館」を建設いたしました。「描くことは祈ることである」を信条とする東山芸術を心行くまでご鑑賞いただきたいと思います。

館は木曽路の入り口にあり,国道19号線沿いの「道の駅」賤母しずも敷地内に立地しています。「賤母」の地は,画伯の風景画家としての出発点となったところでもあります。

施設概要
開館日1995(平成7)年8月1日
敷地面積587.47m²
建築構造鉄筋コンクリート造 平屋建
建築面積376.62m²
延床面積307.54m²

木曽へのメッセージ

東山魁夷

美術学校へ入って最初の夏休みに友人と共に,木曽川沿いに八日間のテント旅行をしながら,御嶽に登ったのが,私を山国へ結びつける第一歩でした。

この旅の途中,山口村(現在の中津川市山口)の」賤母しずもの山林で大夕立に遇い,麻生あそうの村はずれの農家に駆け込んで,一夜の宿を求めました。そこで私は思いがけないほどの温かいもてなしを受けたのです。

この旅で,それ迄に知らなかった木曽の人たちの素朴な生活と,山岳をめぐる雄大な自然に心を打たれ,やがて風景画家への道を歩む決意をしました。

それは画家を志した頃の緊張した気持,一つ一つ積み重ねてゆく意志的な努力と言ったもの,その象徴が北国の姿だったのです。このことが少年期を過ぎ青年になったばかりの私には,大きな人生の開眼であり自然の発見でもありました。

その後は何かに取り憑かれたように信州各地の山野や湖,そして高原へと旅を重ねて,四季折々の風景を描き続けてきました。

この緑濃い賤母の森蔭に「心の旅路館」と名付けた私の版画による展示館が設立されたのも,木曽路と私を結ぶえにしの糸がだんだん大きく太くなった結果かもしれません。この地を過ぎる旅の人達にとって,暫しの安らぎと憩いの場になれば,誠に幸いに思います。

(1995年8月)